2019/10/18

『井の中の蛙』についての覚書【その弍】:発掘コラム

グラフィック・デザイナーの谷田幸さんは、2012年に武蔵美でやったジェネシズ公演を手伝ってくれて、それが縁で l-eで頻繁に会うようになった。虫好きが高じて、というよりはみんなに引っ張り出されて、l-eで虫紹介企画、虫部っていうのもやってますよ。また、私のジェネシズやセグメンツ・プロジェクトに来てくれて、そこで見たもの、聴いたもの、感じたものを自分の言葉で話をしてくれる。そんな彼女の真摯な態度や、独特の視点に、CDジャケットのデザインをお願いするなら谷田さんしかいない!と思うようになった。「やってくれませんか?」「はい!」快諾してくれた。

 

谷田さんには、デジタル配信時代の今の世の中で、CDは音/データの器だけでなく、手に取って、持って帰って、その部屋の一員になるわけだから、モノとしての魅力があるジャケットにしたい、となんとも風呂敷オッピロゲな感じで希望を伝えたわけで。それを真っ正面から受けてくれて、色々アイデアを出してくれ、それを叩き台にして話し合っていく中で、盤面デザインを主役にするというアイデアに向かっていった。ジャケットに開けられた穴からCD盤の絵が見えたら面白いね、って。それなら盤をクルクル回すとイラストが変化するっていうのは面白いよね!と話が展開して行った。言うは易し。実現させるには谷田さんの知恵と工夫が何より必要であった。何度も打ち合わせを重ね、蛙の成長を描こう!ということになり、最後は古池蛙がトロンボーンを吹く!蛙には髭も生やそう!(古池君は髭がある)ということに。結局、そのイラストもお任せすることになった。そして出来上がったものを見て、驚いた。す、素晴らしい!かわいくデフォルメされることもなく、かと言ってリアル過ぎることもない蛙が、卵から成長を遂げ、その過程でトロンボーンと出会い、メガネをかけ、最終的にはトロンボーンを構えて演奏している。楽器から出た丸い泡が卵となり、また一生が始まる。見事に円環する時間が表現されているのだ。あの時の感動は一生忘れることはないだろう。

 

打ち合わせをして、あーだこーだアイデアを出し合って、一つの作品を作る、というのは実は、あまり経験したことがないというか、記憶があまりない。即興演奏は個人的なことだし。バンドやってる人は違うだろうけど、私はそんなにやってない。あー、とても楽しく充実した時間を過ごせて幸せだった。

2019/10/18

『井の中の蛙』についての覚書【その壱】:発掘コラム

2014年、今年の初頭から約半年間、井の中の蛙と関わってきた。

 

ザックリ言えばこんな感じ。1/20に録音、それからジャケット・デザインの打ち合わせが始まり、2/25にCD盤面プレス入稿、3/15の古池君の誕生日イベントに何とか完成。そして四月の京都/神戸/名古屋ツアー、6/20の東京公演で、一区切り。他にどこかにツアーへ行くこともあるかもしれないけれど、とりあえずこれでおしまい。はぁ~、なんだか淋しいですなぁ。

 

古池君のソロCDを私のレーベルから出したいって、二年前ぐらいから考えてて。本人にも伝えて。でもなかなか実際には動き出せずにいた。

 

私のレーベル、Tenseless Music は一作目、二作目とも自身の作品をCD化したもので、『井の中の蛙』が、初めての自分以外の作品のリリースとなる。

 

なんで出したいって思ったのか。理由は何かって聞かれたら、どう応えよう。聞かれてはないけれど。そりゃ、古池君のソロ演奏が好きなのはもちろんだけど、それだけではないはず。好きだけが動機ならなかなか行動には移らない。他にも何か理由があるはずだ。古池君がソロアルバムを出してないというのもある。もし既に出してたら、そんな気にはならないはずだから。単純に言って、古池君と日頃活動を共にする機会が多いからかも。そうだ、実はそれが一番の理由だと思える。そんなことで、って思う人もいるかもしれない。まぁ、そうかもしれないけど。でも、知らない人の作品をリリースしたいとは思わない。私がそれをやる必然性が見当たらない。経済的に余裕があってレーベル活動をしているわけではない。

 

我がレーベルは弱小も弱小、瀬戸内弱小。個人的に小遣いをせっせと毎月貯めるレベルの元手をやりくりしてCDをリリースする。なもんで、大袈裟なことはできないけれど、自分の回りにいて面白いことをやってる人を紹介したいという欲求に素直に向き合っていくことができるし、大切なことなんだと思っている。それが商売ではなくミュージシャンが個人でレーベルをやることの意義じゃないかと。先輩方のレーベル運営を見ても、それは間違いではない。有名なひとに声かけてその人のCDを作って何が面白いんだろう。知ってる人の知ってる音を聞いて何が面白いんだろう。それを面白いと思う人がいるってだけなんだけど。だから我輩は、有名だろうがなかろうが、自分の知ってる大好きなミュージシャンのCDを出して、世に知らしめたいのである。とは言っても、儲けたくないわけではない!次の新譜が出せるぐらいはなんとか…

 

録音は、我らが大崎l-eで行われた。l-eについては、またどこかで書きたいと思ってる。録音はヒバリミュージックでもお馴染みの宇波拓氏。古池君との絡みで言うと、ホースや中尾勘ニトリオ、だね。宇波君はレーベル運営では先輩だから色々相談にのってもらったりしてて、私のレーベルの録音をいつもお願いしている。彼のエンジニアとして素晴らしいところは、何もしないところ。いや、語弊があるな。録音時に鳴ってる音をそのまま生け捕りにしてくれるのである。音に余計なもの付着していないので、むきだしのままそこに存在してある。それでいいと思う。いや、それがいいのだ。もちろん他の音楽では技術的に色々やんなきゃいけないだろうし、宇波君はそれができる人。でも、我々はそれを目指してはいない。その場で起こった出来事をそのまま記録するだけである。

 

演奏については、それほど古池君と打ち合わせをしたというわけではない。今まで古池君がやってきたことをやればいいと思っていたから。でも、時間は決めたかな。一曲15分くらいって、あと、曲ごとに演奏の技術的な違いを出した即興演奏をしようって話もしたかな。それも詳しく決めたわけではなく、ほぼ古池君にお任せ。演奏は淡々と、順調に進んでいった。その時の模様は、同席していた谷田さんが彼女のブログに的確であっと驚く形容で表現してくれているので、ぜひ読んでほしい。私も古池君も、周りの仲間も、これを読んでぶっ飛んで、感謝したものである。(リンク)

 

その後、曲順に悩んだり、数曲ボツにしたりしたけれど、すんなりと音の作業は終わった。やはり演奏がいいことが最も大事なんだよね。

 

つづく

2019/10/08

鈴木學『occupied/vacant』CD&デジタルでリリース!

ずいぶんとお待たせしました。お待たせ過ぎましたね。
お待たせしている間に、名盤をリリースしていたんですが、その紹介はまた後ほど。

 

今回は新譜を紹介します。

いやぁ手前味噌ながら、素晴らしい作品が完成しました。名盤です

 

ミュージシャンでありながら技術者の一面も持ち合わせる、自作エレクトロニクス奏者、鈴木學氏の二枚目のソロアルバムをリリースします。

 

このアルバムは、鈴木さんのこれまでの歩みというか、彼の音楽観、哲学がこれでもかとぶっこまれた一枚になりました。男鈴木學、ここにあり、です。

既存の楽器をシミュレートするようなエレクトロニクスは作らない、エレクトロニクスでしかできないものを追求する、と鈴木氏はよく口にします。それは演奏も然り。従来の音楽を音楽たらしめているものではない視点からのアプローチは一貫しています。彼と出会って20年ほどになりますが、その点では全くブレていません。尊敬します。

 

使用された装置は、ソロ一作目以降(2011年)に作られたものがメインとなっています。曲ごとに使用装置を変えてますので、そちらもお楽しみに。いやぁ、基本はストイックな電子音なのですが、ある曲なんかは、サンプラー使わずにあんな音出しちゃうの?!ってのもあるんですよ。

 

アートワークもかっこいいでしょ?いやぁ、ほんとこのジャケット大好きなんですよね!作ってくれたのは、私が満腹の信頼を…違った、全幅の信頼を寄せて上げております、Akio
Ota氏によるものです。二年前にリリースした宇波拓『cloud of unknowing』のデザインもしていただいております。

本人のペンによるライナーノーツ(日本語/英語)も付いております。

 

CDはbandcampにて購入できます。https://tenselessmusic.bandcamp.com
送金手数料無料のゆうちょ銀行をご希望でしたら、レーベルのサイトからお申し込みください。

 

bandcampではデジタル音源を販売しております。
また、すべての曲がストリーミングで聞くことができますので、ぜひ聞いてみてください!

 

Tenseless Music 木下和重