グラフィック・デザイナーの谷田幸さんは、2012年に武蔵美でやったジェネシズ公演を手伝ってくれて、それが縁で l-eで頻繁に会うようになった。虫好きが高じて、というよりはみんなに引っ張り出されて、l-eで虫紹介企画、虫部っていうのもやってますよ。また、私のジェネシズやセグメンツ・プロジェクトに来てくれて、そこで見たもの、聴いたもの、感じたものを自分の言葉で話をしてくれる。そんな彼女の真摯な態度や、独特の視点に、CDジャケットのデザインをお願いするなら谷田さんしかいない!と思うようになった。「やってくれませんか?」「はい!」快諾してくれた。
谷田さんには、デジタル配信時代の今の世の中で、CDは音/データの器だけでなく、手に取って、持って帰って、その部屋の一員になるわけだから、モノとしての魅力があるジャケットにしたい、となんとも風呂敷オッピロゲな感じで希望を伝えたわけで。それを真っ正面から受けてくれて、色々アイデアを出してくれ、それを叩き台にして話し合っていく中で、盤面デザインを主役にするというアイデアに向かっていった。ジャケットに開けられた穴からCD盤の絵が見えたら面白いね、って。それなら盤をクルクル回すとイラストが変化するっていうのは面白いよね!と話が展開して行った。言うは易し。実現させるには谷田さんの知恵と工夫が何より必要であった。何度も打ち合わせを重ね、蛙の成長を描こう!ということになり、最後は古池蛙がトロンボーンを吹く!蛙には髭も生やそう!(古池君は髭がある)ということに。結局、そのイラストもお任せすることになった。そして出来上がったものを見て、驚いた。す、素晴らしい!かわいくデフォルメされることもなく、かと言ってリアル過ぎることもない蛙が、卵から成長を遂げ、その過程でトロンボーンと出会い、メガネをかけ、最終的にはトロンボーンを構えて演奏している。楽器から出た丸い泡が卵となり、また一生が始まる。見事に円環する時間が表現されているのだ。あの時の感動は一生忘れることはないだろう。
打ち合わせをして、あーだこーだアイデアを出し合って、一つの作品を作る、というのは実は、あまり経験したことがないというか、記憶があまりない。即興演奏は個人的なことだし。バンドやってる人は違うだろうけど、私はそんなにやってない。あー、とても楽しく充実した時間を過ごせて幸せだった。